2019/12/21
映画の予告編はおもしろい。
ときには本編よりおもしろいんじゃないかと思う作品もあるが、昨日たまたまYoutubeで見つけた、クリストファー・ノーラン監督の2020年公開の最新作「TENET(テネット)」の予告編は、私が今まで見た中でもベスト3に入る興味深い映像だ。
●クリストファー・ノーラン監督最新作「TENET(テネット)」予告編より(ワーナー・ブラザース/Youtube
このサイトでは普段「タイムトラベル」や「タイムリープ」を中心に不可思議現象を、「それが真実なら、どんな仕組みで起こるのか?」を考察しているが、今回は2020年9月18日公開予定の「TENET」がどんなストーリーになるのか、この予告編映像から考察、予想してみたい。
※なお主演俳優がどうだとか、映像技術に関する話題は他の映画批評サイトにまかせて、あくまでストーリーにしぼって探っていく。
まずこの「TENET」を監督するクリストファー・ノーラン監督(wiki)はイギリス出身、1970年生まれの49歳で、私の大好きなSF映画「インターステラー」やバットマンをダークなヒーローとして描いた「ダークナイト」3部作、不可思議な夢の世界を見事に映像化した「インセプション」 を代表作にもつ。
ノーラン監督いわく、今回の最新作は「国際スパイが世界を股にかける大作アクション」とのことだが、予告編を見る限り、そんな単純なスパイものではない。
現時点(2019年12月21日)でほとんどストーリーは明かされていないが、唯一のわかっているのは「時間の連続性をめぐる物語」ということ。
映画の公式サイトもタイトルの「TENET(テネット)」という文字が時計回りに回転し、ときおり白から黒ベースに反転するだけだ。
※「TENET」の日本語訳は「教義」や「信条」だが、これだけでは何を意味しているのか、さっぱりわからない。
やはり具体的なヒントは予告編しかなさそうなので、内容を簡単に紹介する。
夜の高層ビル。
ビルの下ではハーネスをつけた主人公の黒人男性が、もう1人の白人男性とともに背中を地面に押し付けて、何かの準備態勢に入っている。
「これから燃え上がるビルに突入すると分かっていても、熱さを感じるまではそのことに気づかない」
ナレーションとともに2人の男は何かに引っ張られるように信じられない高さまでジャンプし、ビルの壁を駆け上がっていく。
手すりを超えてビルの高層階に侵入し銃を取り出す。
場面変わって線路の上で怯えている主人公。何者かに押し倒され、無理やり錠剤のようなものを飲まされて気を失う。
「君は仲間をあきらめず、死を選んだ」
風力発電の巨大な風車が立ち並ぶ海。海上を駆け抜ける1隻のボート。
ベッドの上で目を覚ました主人公。黒いスーツの男が告げる。
「君は試験をパスした。誰もがパスするわけじゃない。死後の世界へようこそ」
主人公は何かの組織に入り、任務を遂行している。
しかし詳しい情報は与えられていないようで、科学者らしき白衣を着た女性に「俺たちが直面している脅威について知りたい」と尋ねた。
「私の知るかぎり、第三次世界大戦を阻止しようとしてる」と答える女性科学者。
「核による大虐殺か?」
「いいえ、もっと悪い」
再び巨大な風車が並ぶ海上。黄色い船体に「Magne Viking」とマーキングされた船。
※「Magne Viking」を調べると、どうやら北極や南極などの氷に囲まれた海を進むために造られた船のようだ。船首にぶつかる波が不自然に消えていく。
「君に伝えられる言葉は一言だけ、『TENET(テネット)』だ。それが正しい扉を開き、間違った扉をも開く」
上官らしき黒いスーツの男が船上で主人公に告げる。
パーティー会場のような場所で老貴婦人が主人公に語る。
「あなたは、新しい視点で世界を見なくてはね」
高速道路でのカーチェイス。主人公たちの乗る黒いSUVはなぜか後ろ向きで走っている。
目の前を走るシルバーの車がクラッシュ。ぶつかりそうになった瞬間、時間が巻き戻るようにボコボコだった車体が修復されていき、何もなかったように車が復活する。
「頭で理解しようとせず、感じて」
女性の声(さきほどの女性科学者?)が告げる。
『TENET(テネット)』のタイトルロゴ
コンビを組む白人男性とある部屋を調べている主人公。分厚いガラスにいくつかの銃弾の跡。
「何が起こったんだ?」
白人男性の質問に主人公が答える。
「まだ起こっていない(これから起こるんだ)」
扉が開き、武装した覆面の男が主人公に襲い掛かる。
・・・確かにただのスパイ映画ではない。
気になったのはやはり「時間の連続性」というテーマ。
予告編でも、
●海上を進む船の船首にぶつかる波が不自然に消えていき、逆再生されたように見える。
●高速道路でクラッシュした車が、勝手に修復して復活する。
●ガラスの銃創を見た主人公がつぶやくセリフ、「まだ起こっていない」。主人公の予言通り、その後武装した男が襲ってくる。
もしかしたら冒頭の高層ビルにジャンプして駆け上がるシーンも、ロープをつたって駆け降りるシーンの逆再生かもしれない。
予告編なので「時間の連続性」がどのように表現されているかまではわからないが、主人公は薬を飲まされ気を失った後(黒スーツ男の言葉を信じると死後)、復活して「時間の反転した世界に生きている」、または「時間を反転させる能力を身につけた」ように見える。
この作品のタイトル「TENET(テネット)」の意味は教義や信条だが、英単語が回文になっていて逆から読んでも同じ「TENET」だ。
われわれの世界とは、逆の時間の流れの世界(死後の世界)があることを示しているのか。
あるいはわれわれの生きている世界は幻想で、その奥に真の世界が潜んでいるのか。
「TENET」は、その「真の教義」を知った主人公の物語なのかもしれない。
例えば他にも「時間の連続性」をテーマにした作品として、
2017/3/10 Back to the past
で紹介したSF作家、小林泰三氏のデビュー作「玩具修理者」に収録されている小説「酔歩する男」がある。
こちらもわれわれが感じている「時間の連続性」が幻想で、脳が単に連続したものだと理解しているだけという話が描かれている。
ところで「時間が流れる」という感覚は、映画や小説の中だけではなく現実の世界でも「幻想」だという事実を、このサイトで何度も考察してきた。
2018/8/30 Back to the past
2019/9/21 Back to the past
●「タイムリープの仕組みを解明(1)」(量子論的スポットライト理論)
2019/11/2 Back to the past
アインシュタインの特殊相対性理論では縦・横・奥行という3つの空間次元に加えて「時間」を4つ目の空間としてとらえ、4次元時空として扱う。
最新の物理学でも、「時間の流れ」はわれわれの心の中にのみ存在し、外界の特徴ではないと考える。
米マサチューセッツ工科大学のブラッドフォード・スコウ博士は、過去から現在へ、現在から未来にスポットライトが移動してくような様が「時間が流れている」ように見えるという「スポットライト理論」を提唱している。
スコウ博士によれば、宇宙の誕生から終わりまでのすべての時間は同時に存在するが、スポットライトが過去から現在に移動したから過去に戻れないのであって、単に「過去」という物に触れる事が出来なくなってしまっただけなのだ。
さらにミクロの領域を扱う量子力学では、この宇宙の過去・現在・未来は誕生したときにすでに存在しているが、それぞれの無数の時間の可能性は非局所的で定まっておらず、常にゆらいでいる。
だからスポットライト理論を量子力学で書き直すと、この宇宙のさまざまな可能性は宇宙誕生時に生まれているが、瞬間瞬間にどの可能性を選択するかは定まっておらず、どの可能性を選択するかはシュレーディンガー方程式の確率による。
われわれの意識は方程式に選ばれた可能性の1つを観測して未来へ進んでいく。その量子論的なストップライトの移動が「時間の流れ」を「意識」に生み出す。
われわれの意識を宇宙を旅するロケットに見立てると、次のような図になる。
アメリカの物理学者リチャード・ファインマン博士は、彼の考案したファイマン・ダイアグラムを反転すれば、反粒子を「時間を逆行する粒子」ととらえることができると示した。
しかし時間を逆行させることは現実にはそれほど簡単なことではない。
時間が未来から過去へとさかのぼるということは、こぼれた牛乳がコップへと返り、にわとりはひよこから卵へ戻り、死んだ人が生き返って赤ちゃんへと縮んでいくような因果律の崩壊した世界だ。
2016/7/12 Back to the past
つまり正の物質世界にいるわれわれでは、到底生存できない世界なのだ。
やはり「TENET」の主人公はいったん死んだ後、時間の逆行した世界で生きる能力を身につけたのだろうか?
さて、以上から「TENET」のストーリーをまとめると、何らかの事故で死に直面した主人公が、死を乗り越え、われわれが生きる時間とは逆行する時間の世界に侵入した。
主人公はその能力を使って、逆行した世界からわれわれの世界に干渉し、任務(第三次世界大戦の阻止)を遂行していく。
気になるのは女性科学者の告げた「核を超える脅威」だ。
もしかしたら敵対する組織が時間を操る能力、例えばタイムマシンを作り出したのかもしれない。
タイムマシンで時間を操り、自分たちの都合のいいように歴史を修正しようとしている。
主人公はそれを防ぐための組織のメンバーに選ばれて活躍する・・・というストーリー。
主人公は時間反転(タイムリバース)能力以外に、ノーラン監督の示唆する時間の連続性を操る(タイムリープ)能力をもっているかもしれない。
とすれば、まさにタイムリーパーだ。
多少私の妄想、願望も入ってしまったが、このタイムリープ的なコンセプトを主軸に、さらに想像を超える物語を期待したい。
アメリカでは日本より一足はやく7月17日に公開されるそうで、
新情報があれば、改めて紹介する。