2023/4/15
2023年3月2日、衝撃的な論文が発表された。
ついに瞬間移動を実現できるワームホールの設計図が完成したというのだ。
しかもそれは現在の科学力で3~4年内に実現できるかもしれない。
●ワームホールの設計図の論文
「From counterportation to local wormholes」/Quantum Science and Technologyより
動画はこちら↓
私の夢は過去や未来へと時間旅行が可能なタイムマシンだ。
2016年から考察をはじめ、調べれば調べるほど、SF映画で孤高の天才科学者が個人で発明するようなことはほぼ不可能なことがわかったので、タイムマシンの完成した姿やニュースが生きているうちに見られたら・・・と思っている。
現時点で私が考える最も有力なタイムマシンの理論は、ノーベル賞受賞者のキップ・ソーン博士が考案した「ワームホール型タイムマシン」だ。
ワームホールとは2つの離れた空間を結ぶトンネルだ。イメージしやすいようにドラえもんのどこでもドアに例えて説明する。
のび太くんの部屋にどこでもドアの入口を置いて、出口を土管の公園に置く。
そして土管公園の出口を光の速度に近い速さで振動させると、特殊相対性理論から、出口に流れる時間が遅くなっていく。
この状態で入口に入ると、出口から出てきたのび太くんは過去の世界に行くことができる。
ただし、今回紹介する論文で、すぐにどこでもドアを作ることはできない。
まだ基礎的な理論の段階だし、革新的な量子コンピューターが必要など越えるべきハードルはいくつもある。
ただしこの論文がすごいのは、いままで大きな壁だった問題をクリアしていることだ。
どこでもドアは、簡単に言えば瞬間移動装置だ。
ある場所の物体を別の場所へと瞬間的に移動させることができ、この技術はテレポーテーションと呼ばれる。
実はミクロの量子の世界では、このテレポーテーションが実現されていて「量子もつれ」と呼ばれる。
ミクロの領域を研究する量子力学では、2つの粒子がもつれ状態になっていると、2つの粒子をどれだけ遠くに離しても、1つの量子の状態が決まると瞬間的にもう一方の量子の状態が決まる。
この現象を「量子テレポーテーション」と呼ぶ。
この量子テレポーテーションは実験で何度も確かめられており、実際に量子コンピューターや高度な暗号通信の開発に応用されている。
ただこの量子テレポーテーションは実際にはモノを「瞬間的に移動」することはできない。
たとえば宇宙で遠く離れた場所にアリスとボブがいて、アリスはボブに「量子テレポーテーション」で量子情報qを送りたいと思っている。
まず量子もつれ状態の粒子aとbが、アリスとボブに渡される。
次にアリスは送信したい量子情報qを、粒子aともつれ状態にする。
それからアリスがボブに、測定結果の暗号キーを送る。
そして最後に、ボブがアリスから送ってもらった暗号キーを元にbを解読すると、瞬間的に量子情報qが再現される。
ここで大事なのは、赤い矢印の部分は瞬間的だが、青い矢印の部分は何らかの伝達手段(暗号キーをロケットに載せて運ぶなど)で送る必要があり、時間がかかることだ。
つまり量子テレポーテーションでは実質瞬間移動はできない。
でも今回イギリス・ブリストル大学のハティム・サリフ博士が発表した論文では、このような暗号キーを送ることなく瞬間的にある場所から別の場所へと量子情報を伝えることができるという。
●ハティム・サリフ博士の論文
「From counterportation to local wormholes」/Quantum Science and Technologyより
瞬間移動を実現したのは、送信者と受信者が物質のやり取りをしない「カウンターポーテーション」という実体のない非物質的な輸送技術だ。
お互いが粒子を交換せずにメッセージをやり取りする方法で、サリフ博士のインタビュー記事(VICEより)によると、たとえば自動車のエンジンの警告ランプみたいなものだ。
警告ランプが点灯するのはエンジンに異常があるとき。正常ならばランプは消えている。
ランプが消えていてもドライバーにはエンジンが正常だということがわかる、そんな感じだという。
この論文を読んでみたがとても難しく、こんな例で説明されてもさっぱりだ。
しかしサリフ博士によると、このカウンターポーテーションを使うことで、われわれのイメージする瞬間移動=テレポーテーションが実現できるという。
それはまるで、ある場所で分解された情報を別の場所で再構成するようなものだ。
さっきのどこでもドアで説明すると、部屋に置かれたドアにのび太くんが触れるとその瞬間にのび太くんの体が分解されて、土管公園の出口で再び再生されるようなイメージだ。
ちなみにサリフ博士は、現在の量子コンピューターを越える画期的な技術が必要なものの、基本的には今の科学力を応用して、今後3年から4年のうちに実現することが期待されるという。
ワームホールの研究は近年とくに盛んだ。
2013年にはマルダセナ博士とサスキンド博士が、量子もつれはワームホールという「ER=EPR理論」を発表した。
※詳しくは下記の記事を参照↓
●「新しいワームホールが考案された!」(でもタイムトラベルは不可能?)
2022年11月にはER=EPR理論を元に、カリフォルニア工科大学のマリア・スピロプル博士らがGoogleの量子コンピューター「Sycamore」を使ってシミュレーションで作ったワームホールで量子情報を送ることに成功した。
●カリフォルニア工科大学のワームホールをシミュレーションで再現の論文↓
「Traversable wormhole dynamics on a quantum processor」/Natureより
タイムマシンの実現に向けて、ワームホール研究の発展に期待したい。