2019/5/15
子供のころは1日1日が長かった。
月曜の朝は憂鬱で、次の週末がどれほど待ち遠しかったことか。
けれども大人になるとあっという間に1週間が過ぎる。年をとるたびにどんどん1年が短くなり時間が加速していく。
今回は「大人になっても子供時代のように時間感覚を遅らせて、充実したときを過ごす方法」を考察したい。
まず「大人になると子供よりも時間の経過が速く感じる」3つの仮設を紹介する。
2019/4/26 UNIVERSAL-SCIより
1つ目は、年齢にともなう心拍数や呼吸などの身体のリズムの変化だ。
大人よりも子供のほうが心拍数や呼吸のペースが速く、同じ時間でもたくさんの回数をきざむので、時間をより長く感じるという。
2つ目は、生まれてから現在までに過ごしてきた時間のスケールの差だ。
10歳の子供と50歳の大人とでは、生きてきた年数に対する1年の比率が違う。同じ1年でも10歳の子供は1/10なのに対し、50歳は1/50。
つまり10歳の子供のほうが大人の5倍も濃密な1年を過ごすことになる。
3つ目は、われわれの時間感覚は新しく吸収する情報量によって遅くなるという説だ。
脳が新しい刺激に出会うとその情報を処理するのにより多くの時間がかかる。逆に慣れてくると処理するスピードが上がるので時間の経過を速く感じる。
子供のころはすべてが新鮮で周囲から取り込む情報量が多いので時間がたつのが遅く、大人になるにつれて吸収する情報量が少なくなり時間が速くなるというわけだ。
あなたはどの仮設を支持するだろうか?
1~3のうちのどれが正しいかわかっていないし、もしかしたら複合的な要因かもしれない。
ところが先日3つ目の仮設に関する興味深いニュースを見つけた。
2019年5月4日 Physics-astronomy.orgより
量子を使った特殊な通信に成功したという記事。
量子力学を使った通信と言えば、2つの量子の間にもつれの関係があるとき、どれだけ距離が離れていても一方の量子の影響がもう一方の量子に瞬時に伝わるという「量子テレポーテーション」が有名だが、今回成功したのはそれとは違う「量子ゼノン効果」を利用した通信方法だ。
「量子ゼノン効果」・・・あまり聞きなれない言葉だが、簡単に言うと、量子の世界では無限に観測し続けていればその量子の状態は変化しない、つまり時間が止まったように凍結されるという。
その語源は古代ギリシアの哲学者ゼノンの「飛ぶ矢のパラドックス」からきている。
飛んでいる矢を瞬間瞬間で細かく観察すると、止まっているように見える。
例えばハイスピードカメラで飛ぶ矢を撮影しコマ送りにすると、1コマ1コマがほとんど動いていない。無限に細かく瞬間を撮影すると矢は静止するが、現実には矢は飛んでいるのだからこれはおかしい、パラドックスだ。
なに屁理屈言ってんだギリシアのおっさんと思ってしまうが、これが量子の世界では実際に起こるのだ。
「量子ゼノン効果」は1977年にテキサス大学の物理学者、ミスラ博士とスダルシャン博士によって提議され、1990年にアメリカ国立標準技術研究所のイターノ博士らの実験によってはじめて実証された。
例えば、放射性崩壊する粒子を連続的に観測し続けると、粒子はいつまでも崩壊しない。初期状態のまま時間を止めることができてしまう。
なかなかピンとこないが、「量子ゼノン効果」は話題の「量子コンピュータ」の開発にも利用できると言われている。
量子コンピュータは、今までのコンピュータの基本単位「0」と「1」に加えて、それらを重ね合わせた状態(コヒーレンス)を取ることができ、この重ね合わせを使うことで従来のコンピュータよりも速い計算が可能だ。
だがこの重ね合わせの状態を維持するのは難しく、一定時間で崩壊(デコヒーレンス)してしまう。
量子ゼノン効果によって観測を繰り返すことで、量子計算の妨げとなるこの崩壊を抑制できるかもしれない。
話がそれてしまったが、仮設3の「新しい情報量をたくさん吸収することで、時間感覚が遅くなる」原因として、この量子ゼノン効果が影響を及ぼすのではないか?
だが量子ゼノン効果はその名の通り量子系という非常に小さなミクロの世界で通用する現象だから、われわれの住むマクロの世界には関係ないと思われるかもしれない。
しかし時間感覚はわれわれの脳からの発現し、物理学者のロジャー・ペンローズ博士によると脳と意識の問題は量子力学的な性質で捕らえられるという(量子脳理論の記事)。
新しい情報をたくさん取り込むということは、脳が五感を通じて何度も観測を繰り返すことだとも言い換えられる。
例えば交通事故などで生命の危機に直面したとき、目の前の光景がスローモーションになる「タキサイキア現象」。
脳が出血を抑えるために「血管を収縮して血液を凝固しやすくせよ」と命令を出し、それ以外の活動が低下して脳の情報処理能力が下がり、視覚情報もスローモーションの映像になると言われている。
●タキサイキア現象 危機的状況でスローモーションに感じる謎を解明|アンビリバボー
2010/11/11 テレビのまとめより
しかし出血を防ぐために脳の機能が低下するのならば、あきらかに生命の危険を回避するには不利で、理にかなっていないように思える。
このタキサイキア現象も量子ゼノン効果ならうまく説明がつくかもしれない。
危機に直面したとき、その危機を回避するために脳は五感をフルに稼働させ情報を取り込む。
視覚が占める割合は五感の中で80%以上ともいわれるほどだから、量子ゼノン効果が発生して時間感覚が遅れて、目の前の光景がスローモーションに見えるのではないか?
それでは積極的に量子ゼノン効果を発生させて「子供時代のように時間感覚を遅らせて、充実したときを過ごす」具体的な方法を考察していこう。
これには「マインドフルネス」が有効だ。
マインドフルネスとは、思考ではなく、目や耳で知覚していること、味や匂いや皮膚感覚などの五感に意識を集中させる方法だ。
最近よく耳にする言葉だが、もともと仏教の教えで「人を悟りへと導く」ために発達した手段で、私も最初は宗教ぽいなと敬遠していた。
本やネットで調べると、1970年代ごろからうつ病や薬物依存などの「心の病」の治療にも使われてきたそうで、いろいろな情報が出てくるが、今回の「時間を遅らせる」という目的に限って言えば、それほど難しく考える必要はない。
ようするに頭でいろいろ考えず、目や耳に飛び込んでくる情報に集中しさえすればよいのだ。
例えば、夜お風呂につかるとき、今日の行動を振り返ったり明日の予定について考えるのではなく、天井にたちのぼる湯気や、体をあたためてくれるお湯の感触、腕をつたう水滴などの感覚を深く味わう。
仕事の行きかえり、電車やバスの中で、いろいろな問題に頭を悩ますのではく、通り過ぎる景色や空に浮かぶ雲に視線を向ける。
台所で食器洗いをしているとき、音楽を聞きながら空想にふけるのではなく、皿をこするスポンジの感覚、水道から流れ落ちる水の感覚に注意を向けてみるといったことだ。
いままで作業としてこなしていた動作に注意を向けることで、あなたが経験する時間の感覚は遅くなる。
反対に思考をめぐらせていれば時間感覚はスピードアップする。
もちろんこれは物理的な時間を速くしたり遅くしたりすることではない。
上の図の①~③の3つの横線の長さはどれも同じだが、錯覚でそれぞれが長く見えたり短く見えたりするように、あくまでもコントロールできるのはわれわれの時間感覚だけで、それは幻だ。
しかし少なくとも時間(感覚)をコントロールできるのだから、最後にこのサイトのテーマである「タイムトラベルへの応用」を考えてみたい。
例えば精神のみが時間移動するタイムリープはどうか?
タイムリープのきっかけは「明晰夢」という夢の中で夢を見ていることを自覚し、さらに夢の内容をコントロールすることだとも言われている。
明晰夢も、短い時間で終わるよりは長く充実した夢を見るほうが効果的だろう。
車の中で昼寝したときなど、とても長い夢を見たのに、起きるとほんの少ししか時間がたってないという経験をしたことはないだろうか?
これは夜の静かな環境での睡眠とは違う状況で、通り過ぎる車の音や人々の話声などの情報を無意識に取り込んでいたからだとも考えられる。
タイムリープには、眠る前に戻りたい過去について考えることが効果的だと思っていたが、マインドフルネスに従うと、眠る前は逆にいろいろ考えず、五感に意識を集中させた方がよいのかもしれない。
マインドフルネスの瞑想に使われる呼吸法が役に立つだろう。
複式呼吸で、ゆっくりと息を吸いながらお腹をふくらませ、ゆっくりと息を吐きながらお腹をへこませていく。
そして呼吸をしている自分に意識を集中するのだ。
タイムリープの方法はまだほとんど確立されていないので、いろいろ試してみる価値はあるはずだ。